うちの近所にちょっとした庭があって、小さな畑と、手入れされた樹木があった。近所のおばちゃんたちが暖かい季節になると食べ物を持ち寄って、粗末なテーブルでお茶会をしているような場所だった。
老夫婦が庭の手入れをしている姿を時々見かけていた。
天気のいい日に自宅の2階のベランダから見下ろすと、なんだか牧歌的でのどかな光景に見えて、私もその庭が好きだった。
(まあ、実際は、おばさん連中が集まってご近所の噂話とか陰口言ってて、ぜんぜん牧歌的じゃないらしいんだけど)
それがこのごろは、庭に雑草が生えて、二人を見かけない気がするなあと思っていた。
実家に住んでいるとはいえ、最近あんまり家に居ない私は、近所のうわさをぜんぜん知らなかったのだ。
数日前。会社から帰ってきてその庭の前を通りかかると、何にも無くなっていた。
藤の木も、畑も、なあんにもない。地面だけの更地になっていた。
私はびっくりして家に帰って、家族に聞いてみた。
すると、そこの老夫婦は二人とも病気にかかって、おばあさんは車椅子、おじいさんは少し前から入院していて意識不明なのだそうだ。
「虫が出るって苦情があって、娘さんが業者を呼んで切らせちゃったんだって。寂しい気がするよね」
と、母は言った。
……。
自分の命が終わる頃になって、丹精していた庭が無くなってしまったのを知ったら、おじいさんはどう思うだろうか。
死んじゃった後だったらどうしようと知ったこっちゃ無いけどさ。
…やるせない気持ちになった。
 
結局、おじいさんの意識は戻ることなくお亡くなりになった。
お葬式は平日だったので、私はいつも通り会社に出掛けた。
あっけないもんだぜ。
今朝も駅へ向かう途中でその庭を見た。
やっぱり何だか寂しい。
つまらない感傷だと言っちゃえばそれまでなんだけど。